日曜日, 1月 28, 2024

今どき房総半島を東京への通勤圏と位置づける方がおかしいのではないか

バブル期に不動産価格が高騰して都心近くに住宅を取得するのが困難になったとき、東京から70km圏に東京への通勤を前提に住宅を取得する人がいた。当時はJR発足直後ということもあり、JR東日本は東京から70km圏まで1時間を目標に速達列車を設定した。その後景気が低迷して不動産価格が下落したり、都心で再開発が進み土地利用が高度化した結果、遠方に住宅を取得する必要がなくなり、東京への通勤圏が縮小していった。今やバブル期から30年以上経過し、当時東京から70km圏に住宅を取得した人たちの多くは現役で働く世代でなくなり、東京に通勤しなくなった。

そのバブルの名残が千葉県内各地にある「限界ニュータウン」である。東急不動産が開発した土気のあすみが丘のように大資本によって開発されたニュータウンは手入れが行き届き今でも人が住んでいるが、小規模デベロッパーが中途半端に開発したニュータウンは町としての魅力が乏しく、分譲したもののほとんど買い手がつかなかったり、かつて建った家が空き家となり廃墟化したりしている。

不動産価格に高い東京において、親の実家を相続できることは一般にとても経済的に有利なことだが、親が購入した住宅があまりに遠い所にあると、子供世代はより東京に近い所に住宅を購入するようになり、親が亡くなっても実家を相続したがらず、かといってまともな値段で売れるわけでもなく負動産になってしまう。

今や房総は東京への通勤圏ではなく、JRの利用客も減少している。JRはその実態に即したダイヤを組んでいるだけである。鉄道建設と沿線開発とを一体で行う私鉄と異なり、沿線開発をしないJRに人口減少の責任はない。人口減少は県政の問題であり、JRで東京に通勤するのが不便になったのはその結果でしかない。

東京への通勤圏として位置づけるなら今やどうしようもない地域だが、物事には常にポジティブな側面とネガティブな側面との両方がある。コロナ禍によって在宅勤務を余儀なくされたときは、房総にとって追い風だった。なぜなら東京への通勤が不要になれば、東京から遠いことが不利にならないからである。通勤不要であれば住む所としては良い所である。

外房は太平洋からの海風のおかげで冬暖かく夏涼しい。一宮町は波が良いので湘南からサーファーが移住している地域である。房総にはゴルフ場が多数あり、地元の人は朝早起きしなくても近所のゴルフ場に行くことができ、帰宅してからひと風呂浴びることができる。だから房総に住むとゴルフがうまくなる。外房は道路アクセスがまだ良くないが、おかげで特急わかしお号が残っており、道路の渋滞なしにたまに東京に出ることができる。木更津も茂原も東金も今やかつてと同様に地方都市だが、普段の生活に必要なものは国道沿いに一通り揃っている。茂原から千葉までは最近全区間無料になった千葉外房道路を走ればすぐである(千葉側に未開通区間があって千葉市内の道路アクセスは良くないが)。

いすみ市の大原ニュータウンはかつてこち亀の大原部長が住宅を購入した場所で、当時から東京への通勤圏としてはありえないほど遠い所として馬鹿にされていたが、通勤事情はともかく、住環境は素晴らしい。千葉県が「東京に通勤しなくてもよい暮らし」を積極的に推進すれば、これらの地域を再生する余地が生まれる。例えばNTTグループは、JRにお金を落とすよりもNTTの通信回線にお金を落としてもらう方が都合が良いことから、テレワークを推進する立場であるため、社員のフルリモート勤務を認めており、日本全国どこにでも住める。そういう人たちに房総への移住を勧めたり、テレワークする人たちがたまに集まって話せるような場所を整備したりすればよい。仕事には一人で集中するのに向いた作業もあるが、インフォーマルなアイディアを交換するなら直接会って話す方が効率的だからである。同業者がある程度まとまって住んでいる方が仕事をしやすい。たまたまNTT出身者がいすみ市の町おこしを手伝っているので、タイミングが良い。

房総ではないが、千葉市美浜区の海浜幕張、検見川浜、稲毛海岸のエリアは、「羽田にも成田にもバス1本で行くことができ、しかもそこそこ本数が多い」という独自の価値を持っている。そのため航空会社の乗務員が多く住んでいる。航空会社の乗務員に限らず、仕事や趣味で飛行機に乗る機会の多い人にとってもとても便利な場所である。そういう人たちにもっと価値をアピールすればよい。他の地域に住む人は、まさかそんなに航空機利用に都合のよい場所があるなんてことを知らない。航空機利用者の多くの目に触れる羽田空港や成田空港に不動産広告があって然るべきである。もっとも、海浜幕張エリアは広告を打つまでもなく既に新浦安と並んで不動産価格が高いが。

東京への通勤圏として東京と同じ土俵に立ったら千葉は決して東京に勝てない。千葉県知事が目指すべきは房総に新しい価値を見出してその価値を高めることであり、東京への通勤圏という30年前の幻想にすがって過去への回帰を目指すことではない。世の中の動きに抗っても結果に結びつくことはない。むしろ追い風を探して追い風に乗る方が結果に結びつきやすい。「通勤快速が廃止されたら東京への通勤が不便になる」なんて30年前のバブル期の発想であり、その時点で世の中の動きから30年遅れている。実年齢がいくつであっても、30年前の考えにとらわれて先を見据えることができなければ、頭の固い老害である。

京葉線通勤快速廃止に際してJRにできることはまだあるのではないか

2024年3月16日の京葉線ダイヤ改正は、通勤快速の停車しない沿線各駅の乗客にとってはとてもメリットの大きいものである。あいにく通勤快速廃止分は減便なのでラッシュ時に利用可能な列車本数は増えないものの、今まで通勤快速の前後の各駅停車が混雑していたが、その混雑が緩和される。

一方、遠方から通勤快速を利用する乗客にとっては不利益変更なので、千葉県知事や千葉市長がJRに抗議し、ダイヤ改正前のダイヤ修正という異例の対応となった。これは早朝の快速を各駅停車化したものを元の快速に戻すものであり、他の列車への影響が少ないと判断されたようである。一方、ラッシュピーク時間帯については修正の余地なしとして当初案のままである。

元の通勤快速のスジは5両編成の特急に置き換えられており、どうせ着席するなら通勤型の座席よりも特急形の座席の方が快適である。特急料金がかかるといっても今ではJREポイントを使うことで格安で乗れるし、JRで遠距離通勤する人はものすごい勢いでJREポイントが貯まるので、実は追加の出費をさほどせずとも特急で通勤できてしまう。それを前提に考えればむしろ改善なのではないかと思える。唯一の問題は、新木場と八丁堀に停車しないことである。通勤快速利用客の中には新木場でりんかい線に乗り換える乗客もおり、このニーズは総武線経由では代替できない。朝上りの特急を新木場と八丁堀に停車させるくらいならそれこそさほど影響なく修正できるのではないか。今回のダイヤ改正には間に合わなくても翌年のダイヤ改正では実施してほしい。

夜下りの特急も通勤快速代替を狙うなら八丁堀と新木場に停車させるべきだろう。八丁堀や新木場から乗車する際には着席できないが、全車指定席の特急なら予約すれば着席機会が得られる。前述の通り追加的な出費はさほどないので、遠距離通勤客にとってはむしろ改善になる。

夜の下りの特急は蘇我を過ぎると乗車率が激減する。これは蘇我以遠の通勤客のボリュームゾーンが鎌取と土気であり、これらの駅に行くためには蘇我で特急を降りる必要があるためである。今回のダイヤ改正で土気停車の特急が設定されたが、通勤特急ならば通勤客の多い駅に停車させるべきで、通勤時間帯のわかしおは全列車鎌取と土気に停車させてもよいくらいである。

ラッシュピーク時を外した時間帯なら通勤快速があっても沿線住民にはさほど不都合はない。東京駅発20時以降は列車本数も車内の混雑も余裕があり、この時間帯に通勤快速を設定すれば通勤快速で遠距離通勤したい人のニーズを満たすことができる。JRとしては特急に乗ってほしいだろうから、通勤快速を設定したがらないだろうが、通勤快速でなければ快速でもよい。

列車ダイヤ設定は、様々な利害が対立する中でなるべくバランスの取れたリソース配分を目指すものである。旅客流動が変化すればリソース配分のバランスも変化する。今回のダイヤ改正は旅客流動の変化に基づくバランスの見直しだが、そうはいっても不利益変更に対して一定の配慮をしないと行政からの介入を受ける。JRは沿線人口には責任を負わないが、それでも民間企業を名乗るからには集客のための努力は必要である。

ここから先は地上設備に手をつける話なので、乗客が減少している中で設備投資をするのに積極的でないかもしれないが、外房線の地上設備には改善の余地がある。前述の通り外房線で乗降客数が多いのは鎌取と土気なので、外房線は大網を境に輸送人員に段差が生じるが、大網駅では列車が折り返すことができず、運転系統上、留置線のある上総一ノ宮まで走らせる必要がある(茂原で折り返すこともできるが茂原折返し列車はほとんど設定されていない)。その結果、大網上総一ノ宮間に乗車率の低い列車を多数走らせることになり非効率的である。大網駅の本線を折り返し可能なように改造するのは難しいだろうが、東金線に直通する列車の停車するホームの有効長を現在の6両分から8両分に延伸することで、千葉発着の外房線列車の一部が大網で折り返すことができるようになり、千葉大網間の輸送力を増やすことができる。

大網の先、永田、本納、新茂原、八積の各駅はホーム有効長が10両分しかなく、京葉線直通列車は停車できるが、総武線快速は停車できない。ラッシュ時にはこれらの駅を通過する総武線快速が設定されているが、日中には通過列車を設定するほどの旅客需要がないため、日中の外房線直通快速が京葉線経由である。しかし京葉線経由の列車は海浜幕張まで各駅停車だし、グリーン車が連結されていないので、長距離を移動するには不便である。わかしおに乗ればよいのだが、日中のわかしおが減便された結果、特急に乗車する機会も限られている。上総一ノ宮までのすべての駅のホーム有効長を、できれば15両分に、最低限11両分に延伸してほしい。

一方、内房線は長浦駅を除き君津駅までの各駅に15両編成が停車することができ、長浦駅を通過する列車を設定してもさほど影響ないことから、日中の内房線直通快速は総武線経由である。また浜野から君津にかけてほぼ満遍なく乗降客がいることから、現状通り君津折返しのままで特に問題ない。

そもそも京葉線の通勤快速が廃止になるのは、遠距離通勤客が減少した一方で、沿線乗客が増加したためである。京葉線で最も混雑するのは武蔵野線からの直通列車であり、ダイヤ改正の都度、武蔵野線からの直通列車にスジを渡してきた。どうしてそんなに混雑するかといえば8両編成だからであり、それは西船橋以遠のホーム有効長が8両分しかないためである。ホームを10両分に延伸できれば10両編成を走らせることができる。さすがに武蔵野線全駅のホームを10両分に延伸するのは現実的でないだろうが、それでも折返し設備のある吉川美南までの各駅のホームを10両分に延伸すれば、千葉県内から京葉線方面への列車の混雑を緩和することができる。船橋市だって市川市だって松戸市だって千葉県だし、房総からの遠距離通勤客よりもこれらのエリアからの通勤客の方が圧倒的に多いのだから、千葉県知事がJRに介入するのだったら、当然これらのエリアの通勤事情の改善も求めなければ、特定の地域だけを優遇して特定の地域を軽視することになる。ホーム延伸のためには用地が必要であり、JR単独では負担が大きいので、千葉県は都市計画を通じてJRのホーム延伸用地の取得に協力すべきだろう。外房線のホーム延伸についても同様に千葉県の都市計画を通じた協力が必要で、そうでなければ口先だけのパフォーマンスでしかないので、JRがまともに相手にすることはないだろう。

ここから先はさらに設備投資が必要なので現実味がないが、できればやってほしいことである。京葉線の地上設備はもともと15両編成に対応できるように作られている。信号機の位置は15両編成を前提にしたものだし(幕張豊砂駅だけは信号機が移設されたが)、トンネル内の東京、八丁堀、越中島の各駅もホームを延伸するためのスペースが既に確保されている。舞浜駅の混雑を緩和するためのホームを15両分に延伸できたのはそのためである。

そこからさらに新木場駅と八丁堀駅と東京駅のホームも15両分に延伸することで、5両編成の特急と10両編成の通勤快速を併結して15両で走らせることができる。2024年3月のダイヤ改正では通勤快速のスジが特急に置き換えられたが、その特急のスジに通勤快速を併結することで通勤快速を残すことができる。現在の乗客数で特急と通勤快速の両方を残すのが現実的でなければ京葉線内の停車駅を増やせばよい。ホーム延伸が必要な駅が増えるが、沿線は混雑しているのだから、着席のニーズもある。

すぐにできることではないだろうが、舞浜駅と同様に乗り換え客でホームが混雑する新木場駅のホームをまずは15両分に延伸して、蘇我寄りにはりんかい線との乗り換え改札への階段・エスカレーターを、東京寄りには有楽町線との乗り換え改札への階段・エスカレーターを設置すれば、りんかい線への乗り換え客と有楽町線への乗り換え客との動線を分離することができ、ホームの混雑が緩和される。

それにしても今回の千葉県知事と千葉市長の対応には失望した。房総半島が千葉県であると同時に、浦安市だって市川市だって船橋市だって松戸市だって千葉県である。緑区が千葉市であると同時に美浜区だって千葉市である。各地域の利害の対立するセンシティブなエリアで、自らが代表する地域の中で、特定の地域を優遇して特定の地域を軽視するような発言を公人の立場でしたのは軽率かつ不適切である。

それでも、千葉県は範囲が広いので遠距離通勤客への不利益変更に対して声を上げるのは理解できる。しかし、千葉市の範囲は幕張豊砂から土気まで、内房線は浜野まででしかない。鎌取は蘇我の1駅隣であり、茂原や上総一ノ宮からの通勤客ほど大きな影響を受けるわけでもない。東京への通勤客よりも千葉や海浜幕張への通勤客の多いエリアでもある。しかも緑区の人口よりも美浜区の人口の方が多いのに、なぜ緑区住民への若干の不利益変更のみを取り上げ、美浜区住民に有利な変更に対して見て見ぬ振りをするのか。千葉県と千葉市とでは守備範囲が異なる以上、千葉市長がすべてにおいて千葉県知事に同調してよいわけではない。

千葉県知事も千葉市長も他県出身だし、職務の性質上、東京まで電車通勤をすることはないだろうし、JREポイントを貯めて特急やグリーン車に乗ったりすることもないだろう。地域の実態を知らないから、一部からの取捨選択された偏った情報のみに影響される。一人の人間の情報処理能力には限りがあるので、守備範囲が広ければ広いほど個々のエリアでの理解が浅くなるのだろう。もちろん、一人でありとあらゆる情報を収集することなどできるわけがなく、組織のトップに求められることは、方針を示し、それを実現するための仕組みを作ることである。すなわち、地元に関する情報を吸い上げる仕組みがまだ弱い。

サイレントマジョリティーは黙って判定を下す。次の選挙の数字がどうなるか楽しみである。また、ふるさと納税によって住民税収がどうなるかも楽しみである。